Q.就業規則に「時間外、休日勤務とは、上長の指示、あるいは上長に申請し承認された場合のみを対象とし、 これらによらない時間外、休日労働については賃金を支給しない」など規定することで、上長の指示に基づかない時間外労働等に対しては、賃金を支払っていないケースがありますが、 この様な取扱は問題ないのでしょうか?
過剰な残業代の支払の防止策として、上記のような取扱をしている企業は多いです。
このような規定は、社員に対する意識付けになり、無駄な居残りや、ダラダラ残業を抑止する効果があり、無駄な経費節減の意味からは有効な方策と言えます。
一方で、上長が指示しない時間外労働(残業時間)について、一切時間外手当等を支払わないという取扱は、労働の実態によっては、労働基準法に違反する可能性があります。
例えば、社員が自主的に残業をしているように見えても、上司が指示した業務をこなすために、必要に迫られて時間外労働(残業)をしているようなケースは、仮に上司から明確な時間外労働の指示が出ていないケースであっても、黙示に時間外労働の指示を出しているとみなされる場合があるのです。
裁判例
納期が迫っているケース
リンガラマ・エグゼクティブ・ラングェージ・サービス事件(東京地裁平成11年7月13日)
「使用者が労働者に対し労働時間を延長して労働することを明示的に指示していないが、使用者が労働者に行わせている業務の内容からすると、所定の勤務時間内では当該業務を完遂する ことはできず、当該業務の納期などに照らせば、所定の勤務時間外の時間を利用して当該業務を完遂せざるを得ないという場合には、使用者は当該業務を指示した際に労働者に対し、労働時間を延長して労働することを黙示に指示したものというべきであって、 したがって、当該労働者が当該業務を完遂するために所定の勤務時間外にした労働については 割増賃金の支払を受けることができるというべきである。」 |
終業時間までにこなすことができない仕事量があるケース
千里山生活協同組合 賃金等請求事件(大阪地裁平成11年5月31日)
「被告の指示による予定されていた業務量が終業時間内にこなすことができないほどのものであり、そのために右各業務を担当した原告らが時間外労働に従事せざるを得ない状況にあったのであるから、原告らが従事した時間外労働は、前記説示において除外したものを除き、いずれも少なくとも 被告の黙示の業務命令によるものであるというべきであり、被告の右主張は採用することができない。」 |
ポイント
時間外労働(残業)を明確に指示していない場合であっても、業務量が就業時間内にこなすことができない場合や、納期などに照らせば、時間外労働(残業)をせざるを得ない場合などには、黙示に時間外労働(残業)の指示を出したことになり、時間外手当等を支払わなければならない場合もありますので 注意が必要です。